【変見自在】

週刊新潮 変幻自在 高山正弘

知らないイラン

日本とイラン(ペルシャ)には深い誼があった。

昭和14年、皇太子モハメド、パーレビとエジプトの王女フォージェとの結婚式に

日本は三菱双発輸送機「そよ風」で天皇特使をテヘランに派遣した。

独、伊などからも慶祝の特別機が飛んできたが、パーレビには日本機に特別の感激があったと言う。

イラン人は西洋人と同じアーリア系なのに妙に差別されてきた。

白人なのにイスラムと言うのも嫌われる理由の1つで、ハリウッド映画「300」はイランを魔物の国に描いている。

侮蔑は現代も生きる。

結婚式の翌々年、ドイツがソ連に進行するとソ連への物資輸送に便利だからと

連合軍はイランを占領し、父レザ・シャーはインド洋に島流しにされた。

そこらの土人国並みの扱いだった。

傲慢な白人が世界を仕切る中で、日本は自力で工業化を果たし、

白人しか作れない飛行機まで作って、ここに飛ばしてきた。

日本機は「イラン王室の特別要請で結婚式の分列飛行に特別参加」(大日本航空写真)している。

パーレビ自身も特別な体験がある。

父を追放された後、彼は連合国管理下で皇帝に即位する。

昭和16年末、その挨拶まわりを終えてパンアメリカン機で帰国の途次、あの真珠湾攻撃に遭遇する。

乗機はハワイ島ヒロに降りるが、彼はそこでいつも偉そうに振る舞ってきた白人どもが

青ざめ逃げ惑う姿を確かに見た。

戦後、パーレビは祖国を停滞させてきたイスラムの縛りを立って「アジアの西の日本たれ」と

工業国化を推し進めた。

当時の農民は税を免れるため農地をモスクに寄進してその小作になっていた。

モスクは肥えていた。

米国はモスクの親玉ハメネイ師に経済制裁を科したが、対象の個人資産が十数兆円強もあったのは

そういう背景があるからだ。

近代化にモスクは財政上の障害だった。

皇帝は当時のモスクの親玉ホメイニ師と深刻に対立した。

欧米はしかし皇帝を見捨てた。

中東に「日本」はいらない。

お前らはイスラムの澱にまみれ、石油だけ出していれば良い。

ホメイニ師の抵抗はむしろ歓迎され、国外追放された師の説教はBBCが丁寧にイランに流し続けた。

かくてパーレビが逆に追われた。

ホメイニ師はモスクの財産を守りきったが、それで満足はしなかった。

俺たち坊主でこの国を乗っ取ってみるか。

彼の手先になったのがシーア派狂信者集団、革命防衛隊パスダランだった。

彼らが敵対する共和党派を殺しまくり、企業も大学も役所も支配下に置いた。

その上で「イスラム坊主を指導者と崇め、民は良きイスラム信者となる」憲法草案を国民投票にかけた。

もし通ればコーランに従い飲酒、賭博が禁じられる。

女は髪も素顔も夫以外に見せてはならない。

何より不倫をすれば最も残酷な石打刑に処される。

民はそっぽ向いたが投票に前後してパスダランが米大使館を占拠し、館員を人質に取った。

米のミサイルが今にも飛んできそうな不安が多い中で国民投票は

「坊主専制憲法は99.8%の民が承認した」と発表された。

インチキだと言えば即座に処刑されて殺された。

翌日から本当に不倫女が公開処刑され、酒を隠し持った男が鞭打たれた。それがもう40年続く。

日本人が知るイランはとっくに消え去っていた。

イランの新しい顔パスダランは先日、日本のタンカーを爆破し、米軍の無人偵察機を撃ち落とした。

英タンカーを拿捕した。彼らの狂気はまだ健在なことを示している。

ボルトンは狂気の宗教支配に抗う市民を応援してきた。

「ハメネイが国を変えないなら政権を転覆させるしかない」とも公言した。

あの時ホメイニ師を黙認した米国にも一旦の責任があると考えている。

この問題を朝日新聞の社説は「トランプが悪い」と書く。それはちょっと違う。

ときには滅ぼしたほうがいい政権もあることを知ろう

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