前章までに述べてきたように、中国が東シナ海、南シナ海における覇権的行動は
拡大の一途をたどっており、地域の安全保障に対する懸念が増大しています。
中国は、2021年の中国共産党出創立100周年記念を中間目標として、
2020年までにアジアにおける軍事的優位を確立し2050年頃にはアメリカをしのぐ、
派遣国家になることを目指しています。
最初のステップである2020年は目の前に迫っており、
もはや事態は切迫した状況にあるのです。
日米ともに、中国の本格的な武力紛争が発生するのであれば、
それは2020年から2030年の間と推測しています。
中国の軍事戦略を語る上で欠かせないのが、これまで述べてきた「第一列島線」と
「第二列島線」と言う概念です。
第一列島線は日本列島から沖縄、台湾、フィリピンを経てインドネシアの
ボルネオ島に至るラインです。
そして第二列島線は、千島列島、北海道から伊豆諸島、小笠原諸島、グアム・サイパンを
経由し、パプアニューギニアに至るラインで、中国海軍は2020年までに
第二列島線までの支配を完成させることを目標としています。
また中国は、空軍の軍事力発展戦略として航空・宇宙一体、攻防兼備」の
「空天一体」と言う戦略をとっており、
宇宙開発にも多くの資源を投じています。
2016年9月には宇宙ステーションの試験機「天宮2号」の打ち上げが成功し、
翌月には2人の宇宙飛行士を乗せた友人宇宙船「神舟11号」打ち上げも成功していました。
中国の大型宇宙ステーション「天宮」は2022年以降の完成を予定していますが、
日本や米国などが共同して運用する国際宇宙ステーション(ISS)の運用が終了する
2024年以降は、中国が宇宙ステーションを展開する唯一の国になる可能性があります。
習近平国家主席も「強大な空軍建設は共産党と人民のたゆまぬ追求であり、
「強軍目標」の実現に向けた重要な1部分だ」と述べており、空の強化の重要性を
アピールしています。
また中国では、「北斗」と言う独自の衛星測位システムの開発に取り組んでおり、
2020年には世界レベルでの運用体制がととのうと言われています。
中国経済は以前よりも失速気味ですが、彼らは2020年に向かって軍事力の強化を
着実に進めています。
ところが日本は、こうした中国の動きに対して極めて関心と意識が低いと
言わざるを得ません。
一方、アメリカは中国のミサイル攻撃などによる損害を回避するために、
軍事的合理性の観点から戦略を見直しています。
作戦当初、前方に展開する空母機動打撃軍などの米海空軍主力は第二列島線以遠に
退避させ、長期戦や長距離打撃を基本とした戦略にシフトしつつあります。
CS BAが示している長距離作戦イメージ図が図(25)です。
こうしたアメリカの動きもあり、日本も大胆な戦略の見直しを迫られています。
以前から「自分の国は自分で守る」と言うメッセージは流布されていますが、
それを現実のものとして受け取る事はほとんどありませんでした。
しかし、昨今の米中の動きによって、本当に自立しなければならない局面に
立たされているのです。
トランプ大統領のアメリカも日本が自立することを望んでいます。
また台湾やフィリピン、ベトナム、オーストラリア、インドについては、
中国よりも日本のほうに親和性があります。
そのため、日本は対中戦略の先頭に立ち、アジア太平洋・インド地域諸国との
共同防衛へと発展させるべきです。
そして後退しているアメリカを引っ張り出さなければ、
日本そしてアジア太平洋地域の平和と安全を確保することはできないでしょう。
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